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仲間がいたから果たせた復活

ヤマニ醤油(岩手県陸前高田市)

津波が到達する直前、母を背に命からがら高台に避難したヤマニ醤油(岩手県陸前高田市)新沼茂幸社長。社屋が流される様子を目の当たりにしながら、新沼氏は「この後、どこでヤマニの醤油をつくるか」を考えていた。

■震災直後の電話
 2011年3月14日。岩手県花巻市にある老舗味噌・醤油店、佐々長醸造の佐々木博社長の元に、一本の電話がはいった。津波で社屋が流された、ヤマニ醤油・新沼茂幸社長からだった。「電話の内容を聞いて驚いた」と佐々木氏は言う。
 震災から3日後、一部の避難所でようやく電話が使えるようになった。NTTが特設した衛星電話だ。一人2分間限定の電話口で新沼氏が真っ先に言ったのが「蔵を使わせてほしい」という依頼の電話だったのだ。「今は体調を崩した母の看病に専念したい。でも、いつになるか分からないが、ヤマニの味の再現に挑戦する時はよろしくお願いしたいと話した」(新沼氏)。
手前からヤマニ醤油・新沼茂幸社長、佐々長醸造・佐々木博社長、畠山了一工場長、佐々長醸造でヤマニの味を伝える鈴木靖春氏
手前からヤマニ醤油・新沼茂幸社長、佐々長醸造・佐々木博社長、畠山了一工場長、佐々長醸造でヤマニの味を伝える鈴木靖春氏

 ヤマニの味を再現するには、どんな醤油メーカーでもいいというわけではない。ヤマニ醤油は、150年続く老舗。しかも〝御用聞き〟という昔ながらの商法で、近隣住民を中心に固定客が多くいた。「ふるさとである陸前高田市に近い大きな蔵元であること、豊富な井戸水があること、そして一緒にやっていく人たちの人柄(相性)を重視した」と新沼氏は言う。
 すべてを津波で失った中、自力で醤油蔵を再建するのは至難の業に思えた。今後しばらくは、ヤマニ醤油を別の場所でつくることになるだろう――。そう考えた時、「この人とだったら一緒にやっていける」と思えたのが、佐々木氏であり、佐々長醸造の工場長である畠山了一氏だったのだ。

■震災直後の電話
「あのイベント後、新沼社長の顔つきが変わった」と語るのは、畠山工場長だ。11年8月27、28日、陸前高田市では、津波で店を流された地元企業が出店し、復活を誓う「陸前高田市復興街づくりイベント~街おこし・夢おこし」(以後、復興祭)が行われた。ヤマニ醤油も、多くの人の希望で出店することになった。
 「あんなに大勢の人が早朝から並ぶことは予想していなかった」と新沼氏は振り返る。何人の「お得意さま」が来てくれるかわからないという。不安の中、始まったイベント当日。ヤマニの醤油を買うために多くの人が列をつくり、1日200本限定で用意した商品は、両日とも瞬く間に売り切れた。「ヤマニの復活を待ち望んでいる人がこんなにいるとは思わなかった」。新沼氏は背筋が伸びる思いがしたという。この時、「ヤマニ醤油をもう一度復活させる」という決意を新たにした。
 イベントで出した醤油は試作品。本格的な復活に向けて、加速度的に準備は進んだ。販売再開の日を年末商戦より前の11月21日に設定し、ヤマニ醤油の主力商品であるほんつゆと上級醤油を用意した。さらに新商品として、震災前人気の高かった「ヤマニ醸選醤油」を「天使のしょうゆ」と名づけ準備した。ラベルは、復活への願いを込めて、アンパンマンの原作者で知られるやなせたかし氏がヤマニのために描いてくれたイラストを使用した。
新商品「天使のしょうゆ」。やなせたかし氏が、陸前高田市の復興のためにと同社にイラストを提供したものだ
新商品「天使のしょうゆ」。やなせたかし氏が、陸前高田市の復興のためにと同社にイラストを提供したものだ

 大変だったのは、味の調整だ。「おいしい醤油はいくらでもある。でもウチに求められているのは、顧客の記憶にある、以前のヤマニの味」(新沼氏)。レシピには、香りや味わいから想起される思い出を記載することはできない。それらは顧客の記憶の中にある。レシピどおりにつくっても、記憶の中の味と一致しなければ、ヤマニの味とは言えないのだ。イベントのあと回収したアンケートを元に、何度も味を調整し、元のヤマニの味に近づけていった。

■味を受け継ぐプラットフォーム
 「震災以前は、自分の代で終わってもいいとどこかで思っていた」と新沼氏は言う。だが、震災後、多くの人がヤマニ醤油の復活を待ち望んでいることを知り、この味をつなぐことが自分の使命だと感じた。そしてたどり着いたのが、ヤマニブランドを守るヤマニ醤油、製造を代行する佐々長醸造、ヤマニ独特の商法である「御用聞き販売」の新会社の三社で行うアライアンスだった。 
 新沼氏は、一時的に盛岡に拠点を移していた。そのため、これまでのような地域密着型の「御用聞き」はできない。そこで陸前高田市に残っていた社員と連携をとり、ヤマニの「御用聞き」専門の販売会社をつくることにしたのだ。
 この会社の社員が被災地の仮設住宅をまわり、既存顧客の御用聞きをする。製造部門は佐々長醸造が担う。佐々長醸造には、ヤマニの味がわかる職人を正社員として受け入れてもらい、畠山氏と新沼氏の指導のもと、ヤマニの味の伝承に挑む。
 こうして、これまでと違う形でヤマニの味を人々に届けるプラットフォームは完成しつつある。陸前高田市のふるさとの味「ヤマニ醤油」。すべてを受け入れてくれた佐々木氏、佐々長とヤマニという二つの100年ブランドを担う畠山氏。その信頼関係があったからこそ、ヤマニの味は復活を遂げた。大変な苦難を乗り越えた今、未来永劫、陸前高田のふるさとの味として、受け継がれていくことだろう。

<Company Profile>
 ヤマニ醤油株式会社
 岩手県盛岡市大沢川原3-8-45 リバーパーク直久403
 080-1850-2151
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※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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