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働きがいのある中小企業を増やしたい

ワイキューブ社長 安田佳生

ワイキューブ社長 安田佳生(やすだ・よしお)/文・上田里恵(2007年10月04日更新)

ワイキューブは中小企業向けの新卒採用支援事業を出発点として、人材コンサルティング会社へと成長した。同社を率いる安田佳生は、「古い価値観を捨て、魅力的な中小企業たれ」とエールを送る。採用のプロとして、経営のプロとして、設立時から一貫して中小企業に目を向け続けている。<月刊ベンチャー・リンク 07年9月号>

カフェ風のオフィス空間で業務の要となる新鮮なアイデアを引き出す

東京・市谷にあるワイキューブの本社は、とても会社には見えない。足を一歩踏み入れると、間接照明のやわらかなあかりに包まれ、おしゃれなカフェのようなサロンが待ち受ける。


大理石の床にソファとテーブルが並び、奥にはカウンター、手前にはワインセラーもある。それだけではない。地下は本格的なバーになっていて、1台150万円のビリヤード台が2台、カウンターの後ろには各種アルコール類がずらりと並ぶ。

東京・市谷の本社にあるサロン。社員は資料を読んだり、数人で打ち合わせしたりと、リラックスした雰囲気のなかで仕事ができる。
東京・市谷の本社にあるサロン。社員は資料を読んだり、数人で打ち合わせしたりと、リラックスした雰囲気のなかで仕事ができる。
1990年の創業間もない頃から、中小企業向けに新卒採用や営業力アップのためのコンサルティングを手がけてきたワイキューブ。その急成長ぶりとともに、オフィス空間が斬新なことでも注目される。

「売上高40億円、経常利益1億円程度の会社がやることじゃないですよね」
そういって笑う社長の安田佳生は、常識の「半歩先」を行くことが信条だ。その独自の経営哲学、人材育成に関する考え方は、昨年1月の出版以来30万部を超えて売れ続けている著書『千円札は拾うな。』(サンマーク出版刊)などを通じて広く知られ、経営者のみならず会社員からも支持されている。

本社地下の社員専用バー。多くのマスコミに取り上げられ、同社のブランド構築にもつながった。ビリヤード台は1台150万円。
本社地下の社員専用バー。多くのマスコミに取り上げられ、同社のブランド構築にもつながった。ビリヤード台は1台150万円。
これまでの常識を覆す斬新な本社オフィスは雑誌やテレビなどで盛んに取り上げられ、お金をかけて宣伝するよりも広告効果が上がったという。05年11月、恵比寿に開設した東京第2オフィスはさらに「半歩先」を行く。イタリアでは人々のコミュニケーションスペースとして利用されているバールそのものをオフィスにしてしまった。

「ここまでやるのは無駄だという人もいますが、私も社員も共に楽しく働けるようにしたいというのが基本的な考えです。ある程度はリラックスした方がいいアイデアが生まれ、結果的に会社の利益になります。だから“必要な無駄”もあるのです」

東京・恵比寿にある社員専用のショップ「Ystyleサロン」。オーダースーツ、シャツ、靴から文房具まで一流品がそろう。
東京・恵比寿にある社員専用のショップ「Ystyleサロン」。オーダースーツ、シャツ、靴から文房具まで一流品がそろう。
いいアイデアを出せるかどうかは、同社の主要事業である中小企業コンサルティングの成否を大きく左右する。例えば、「いい人材が欲しい、社員のモチベーション(やる気)を高めたい、社員1人当たりの収益を上げたい」といった経営者の悩みに対して、最適な解決策を見出すことが勝負どころとなる。

問題解決のカギは、新卒採用にあるのか、マーケティング戦略にあるのか、組織体制の見直しなのか。様々な観点から検討し、顧客の利益に結び付く提案をしなければならない。
企業の経営戦略を緻密に分析し、新たな発想で解決策を練り上げることがコンサルタントには求められる。カフェのようなオフィス空間は、そのアイデアを練る場所だ。ある社員はパソコンに向かい、ある社員は書類を広げて打ち合わせをする。安田も毎日のように、ここで仕事をする。

無計画な拡張で失敗、
売り方を変更して電話営業から反響営業に


安田は高校卒業後、アメリカの大学で学んだ。89年に帰国してリクルートに入社し、新卒向け就職雑誌を扱う営業部門に配属された。世はバブル期の真っただ中。新卒の優秀な人材は有名企業や大手企業に殺到し、中小企業がほとんど見向きもされない状況を目の当たりにする。もともと起業を目指していた安田は2年を経ずしてサラリーマン生活に終止符を打つが、リクルートでの経験がのちにワイキューブの事業展開に結び付く。

「リクルートを辞めてすぐに会社を起こし、最初は在米日本人向けに新聞を作ったり、輸入業務を手がけたりしていました。様々なビジネスに手を出したが、結局残ったのが人材ビジネス。広告を出しても就職希望者が集まらない中小企業の状況を見ていたので、学生をなんとか引きつけられないものかと考え、中小企業が開く会社説明会に学生を呼び込む商品を始めたのです。顧客となった中小企業の会社説明会に来てくれるように、学生を電話で誘う仕事で、“1人来たらいくら”という成功報酬制で契約を獲得していきました」

安田には初めから勝算があった。
「その頃の人材ビジネスといえば、求人広告を出すのが主流。電話をかけて学生を呼び込んだり、成功報酬制を導入する会社はなかったので、ある程度の売り上げは見込めると考えていました。当時の社員は5人で初年度の売上高は7000万円。3年目で1億円を達成しました」

だが、バブル崩壊後の不景気の直撃を受けて中小企業の新規採用意欲がしぼみ、学生動員のみの事業は約5億円で頭打ちになる。それでも安田は悲観するどころか、攻めの経営に打って出た。中小企業から幅広く新規採用の需要を呼び起こすため、98年、就職情報誌『就ナビ』を創刊した。

収入源は求人広告だ。動員商材よりも多くの営業戦力を必要とするため、社員を50人に増やした。規模拡大にともない、前年には、当時、新宿御苑にあった本社オフィスが手狭になったことから、西新宿の高層ビルに移転。安田は、年間売上高20億円の目標達成に向けて積極果敢に挑んだ。

結果は惨敗。思うように売り上げが伸びず、膨大な負債を抱える。西新宿のビルからも半年で撤退、週末までに回転資金を工面しなければ倒産するといった状況がしばらく続く。

「さすがに倒産を覚悟しました」
安田は厳しい表情で、今から7、8年前を振り返る。だが、この失敗から多くを学んだ。社員を増やし、自社媒体を運営して広告を集めれば売り上げが伸びるという考え方は間違いだとわかり、売るモノと売るための戦略を一から練り直した。

「00年にはインターネットの就職ウェブサイト『就職コンパス』の運営にも乗り出したのですが、情報誌もウェブサイトも、リクルートや新聞社のような大手企業には勝てるわけがありませんでした。そこで、自社媒体に求人広告を集めて収入を得るのではなく、採用に際しての人の見抜き方、口説き方といったノウハウや、広告で訴えるために効果的な宣伝文句といったソフト提供事業に方向転換しました」

人材採用コンサルティングのスタートだ。その前に軌道修正すべきことがいくつかある。広告営業のように、電話で「社長、5分だけ時間をください」といって突然のアポイントを取る従来方式では、どんなサービスを提供できるのか説明しきれない。熟慮を重ねた安田は、電話営業をやめて反響営業へと切り替えることを決意した。主要媒体にワイキューブの広告を掲載し、それを見て興味を持って問い合わせてきた企業に営業をかける戦略だ。

100億円を稼ぐため
目の前にある20億円の事業を捨てる


失敗を経て安田がつかんだのは「捨てる」という哲学だ。著書『千円札は拾うな。』にもあるとおり、めまぐるしく価値観が変わる現代では、大多数の意見にすぎない常識は捨てて変化し続けなければならない。この考えのもと、03年に「就職コンパス」の運営をやめた。「就職コンパス」は数億円を投資して数年がかりで登録者が十数万人にまで増え、まさにこれからという時点で決断した撤退だ。

「社員たちは大反対(笑)。しかし、どうしても必要なことでした。景気に左右されやすい人材採用は柱の事業にするには不安定だから。どんな時でも着実に業績を上げられる事業を育成するため、中小企業のブランド構築やマーケティング、人材育成、採用のコンサルタントに軸足を移すことにしたのです。そうなると、『ワイキューブ=就職サイト』というイメージは、かえって足かせになりかねません。当時の年間売上高は20億円くらい。これを100億円にするには、企業イメージを変えるために自社媒体を捨てなければ無理だと思いました」

といっても、当時、企業の採用状況はまだ“買い手市場”。人材コンサルティングを柱に据え変えるのは時期尚早な面もあったのではないか。
「でも、私たちが売るのは、『業績アップのための戦略』。例えば業績を上げるにはいい人材が必要、いい人材を育てるには新卒採用が不可欠というような論理の筋道を立て、タクシー広告や雑誌などの広告で訴えかけるわけです。この戦略はうまくいきましたね。人材コンサルタントに特化したことで、雑誌やテレビなどで取り上げられるようになりました」

常識を捨てる戦略をとり始めた03年以降、同社の売上高は前年度比120%以上の増加とまさに倍々ゲームで拡大していく。コンサルティング事業の内容も採用に主眼を置くものから、顧客企業の売り上げを増やす仕組み、顧客からの問い合わせを増やす仕組み、企業ブランドの構築と領域を広げていった。今では年間1万もの問い合わせがあり、あらゆる業界で4000社以上のコンサルティング実績を持つまでに発展を遂げた。

顧客となる中小企業の給料を2倍に
社員のやりがいを3倍にする


「どうすればいい人材が集まるのか、学生に人気の高い企業になれるのか。また、いい人材をどうやって見抜くのか。そんなノウハウを蓄積している企業は、気づいたら当社のほかになかった。それだけのこと」
ワイキューブの成功について淡々と語る安田だが、今後も「中小企業の業績アップに貢献する」という座標軸はいささかも揺るぎない。

安田は顧客と接するなかで、中小企業の経営者たちは「社員の待遇を上げたい、でも利益も上げたいと葛藤している」と実感している。だからこそ、顧客の企業で働く人たちに劇的な変化や、やりがいを生み出したいと願う。

「中小企業は、経営者の意識ひとつで大きく変わることができます。しっかりとブランドを構築して少人数で大きな事業を成し遂げたり、ヒットを生み出したりしている企業もあります。ワイキューブがコンサルタントになることで、顧客企業の社員の給料を2倍に、やりがいを3倍にしていくのが目標です」

大企業で働くよりも楽しく、給料も高く、しかも待遇がいい中小企業をたくさん作りたいと意気込む。一方で、自分の身の処し方についても思いをめぐらせる。

「辞める時は持ち株を譲る。次期社長にあれこれ注文をつけない。そう考えています。すでに創業者オーナーであることは捨てていますね。限りなくサラリーマン社長に近いオーナー社長といったところかな」

自社株の放出を公言したことにより、社員の士気は高いという。安田たち経営陣が辞めたあとは、自分たちで会社を動かしていくという志がめばえているからだ。

「私がなにもしないから、反動で『自分たちがやらねば』と社員の士気が上がるのでは」
安田本人は笑うが、それも安田流の組織をまとめる術だろう。安田が経営の一線を退くのはどのタイミングか。それは、ワイキューブによって給料が2倍にやりがいが3倍になった中小企業が全国のあちこちで見られるようになった時に違いない。(敬称略)



【プロフィール】
安田佳生(やすだ・よしお)
1965年大阪生まれ。18歳で渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻する。帰国後、リクルートに入社、営業職を経験。90年ワイキューブを設立。中小・ベンチャー企業を対象に経営戦略立案、人材・営業コンサルティング事業などを展開する。長年培ってきた独自の採用コンサルティング手法により、中小企業の事業改善、業績アップを実現している。著書に『採用の超プロが教える できる人できない人』などの『採用の超プロが教える』シリーズ、『千円札は拾うな。』(いずれもサンマーク出版)など多数

【会社クレジット】ワイキューブ
【本社所在地】〒162-0844東京都新宿区市谷八幡町2-1
【創 業】1990年11月
【T E L】 03-5206-1300
【資本金】2500万円
【売上高】46億円(07年5月期)
【従業員】186人(07年6月1日)
【事業内容】売り上げ設計図立案事業、営業力強化プログラム提案事業、人材コンサルティング事業、ビジネスツール企画・制作事業など
【URL】http://www.y-cube.co.jp/

仕事を通して共に成長できる
それがワイキューブ

天竜精機 代表取締役社長 芦部喜一氏

天竜精機(長野県駒ヶ根市)がワイキューブの顧客企業となったのは約1年半前。優秀な社員を採用すると同時に、採用活動を通して社員の成長を促したいというのが目的だった。
「1年目は社内の採用担当者に対して、ほとんど付きっきりでワイキューブの担当者からアドバイスをしてもらっていました。すると2年目からは、そのノウハウを生かし、意見を出し合いながら採用活動を進めることができた。社員の成長を感じましたね」。天竜精機の芦部喜一社長が顔をほころばせる。

採用と研修に関する業務を第三者であるワイキューブに依頼したことが社員にとって刺激になり、よい結果を生んだと芦部社長は分析する。
「ワイキューブは社外にある経営企画部のような役割を果たしてくれています。ともに成長していこうとする姿勢や、私たちの意見をしっかり聞き、楽しみながら仕事をしてくれるところも好感が持てますね」。一緒に会社説明会の内容を考え、会社の方向を示すビジョンブック『成長する木々』(写真)も制作した。変化を楽しむワイキューブと、社内改革に着手した芦部社長との波長はぴったりと合っている。

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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