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あきらめていては何も始まらない

<ベンチャースピリッツ>アルビレックス新潟会長 池田弘

池田 弘(いけだ ひろむ)/文・上田里恵(2007年12月27日更新)

専門学校、高校、大学を傘下に持つNSGグループ。この日本有数の教育事業グループを築き上げた池田弘が次に挑んだのは、プロサッカーチームの経営というまったく畑違いの分野だった。1996年の挑戦から7年。「スポーツ不毛の地」と言われ続けた新潟を本拠地とするアルビレックス新潟がJ1チームへの昇格を果たした。学校運営とサッカーチーム経営の成功の裏には、「地域活性化」という池田の揺るぎない信念があった。

「新潟を活性化する」高校時代に芽生えた思いが幅広い行動の核に

03年11月23日、新潟は歓喜に包まれた。アルビレックス新潟が大宮アルディージャ戦に勝ち、サッカーJ1リーグ昇格を決めたのだ。新潟スタジアム(通称ビッグスワン)には4万2223人が詰めかけてほぼ満席となり、オレンジ色のユニフォームに身を包んだサポーターは悲願達成に沸いた。

しかも、この年はJ2のチームながら、年間観客動員数66万7447人と、Jリーグ歴代年間観客動員数の最高記録を塗り替えた。スポーツ文化が根づかないとされていた地で巻き起こったサッカー熱は「新潟の奇跡」と呼ばれ、96年からチーム作りに取り組んできた池田弘(ひろむ)は「奇跡を起こした男」として名を馳せた。

「運営にはかかわりましたが、私ひとりでチームを作ったのではありません。地域の皆さんの支持が得られた結果です。Jリーグは地域に根ざしたチーム作りを理念としていますし、ヨーロッパに目を向けても、地域住民が出資してチームを支える図式は当たり前のこととなっています。

スペインの強豪チーム『FCバルセロナ』もそう。大手企業の後援がなくても、地域住民の出資によってチーム作りが可能なのです」

右/アルビレックス新潟の選手。07年はチーム史上J1最高位を狙う。(写真提供:アルビレックス新潟)左/ビッグスワンを埋め尽くすサポーターは、新潟の新しいシンボルになった。(写真提供:アルビレックス新潟)
右/アルビレックス新潟の選手。07年はチーム史上J1最高位を狙う。(写真提供:アルビレックス新潟)左/ビッグスワンを埋め尽くすサポーターは、新潟の新しいシンボルになった。(写真提供:アルビレックス新潟)


池田は、もともと学校経営者として手腕を発揮してきた。76年に学習塾、語学学校、カルチャースクール(成人教育施設)を手がける新潟総合学院(NSG)を創設、30年の間に28の専門学校をはじめ、高校、大学、大学院大学、さらには医療・福祉施設などを傘下に抱えるNSGグループへと育て上げた。専門学校は、事務や会計などのビジネス系をはじめ、服飾、グラフィック、アニメ、福祉、スポーツなど幅広い分野を網羅している。

また、池田にはもう1つの顔がある。新潟総合学院を創設した年に、愛宕神社の宮司(ぐうじ)に就任した。
「神社の息子として生まれ、宮司である父の跡を継ぎました。子供の時から父について氏子(うじこ)さんを回るなどして手伝っていましたが、だんだん回る家が減って、商店街にシャッターを閉めた店が目立つようになり、高校生の頃には宮司の仕事に将来があると思えなくなっていました。それがある時、インド独立の父ガンジーを支えた事業家の存在を知り、私も人を支えるような仕事がしたいと思うようになりました。宮司として地域住民の幸せを願いながら、地元のためになる事業を起こす。さびれてしまった故郷を活性化したいという思いが募ってきたのです」

教育事業を選んだのも地域活性化のためだった。地元に活気を取り戻すには、県外に出て行く若者をとどめる必要がある。そのためには地域に専門学校を作り、地元で就職できるように環境を整えることが重要だ。そう考えた池田は「ストップ・ザ・東京」をテーマとして、日本でナンバーワンの学校を作ることを決意し、資格の合格率を目標に定めた。

「例えば、日商簿記1級の合格率が日本一といった学校にしようと考えました。“学ぶなら東京”という風潮を覆すには、実績で示すしかありません」
また、デザインやファッションの分野では、世界でナンバーワンとされる学校と次々に提携していく。そこから一流の講師を招き、学生たちを世界的なコンテストに送り出した。05年には、提携校が12カ国・地域、67校に上っている。

何のためらいもなく提携の話を進めようとする池田に、最初は現場のスタッフが困惑したという。「提携先があまりに有名だから、みんな怖気(おじけ)づいたようですね。地方の小さな学校だから無理だとあきらめていては何も始まりません。そんなことができるわけないという教員の意識を変え、士気を上げる。最も苦労したのはそこでした。学生にやる気を起こさせる力があるのが優秀な先生だと私は思います。そして、私の役目は挑戦できる環境を整えることです」

アルビレックスの経営危機を救った地域全体で支える仕組み

無理だと思う前に実現できる方法を考える不撓不屈(ふとうふくつ)の精神は、サッカーチームの経営でも発揮されることとなる。サッカーに関して「ずぶの素人だった」という池田が、このスポーツとかかわるきっかけとなったのは、日韓共同開催のFIFAワールドカップ。02年の開催に向けて、新潟県が開催都市に名乗りを上げ、招致活動の一環としてJリーグを目指し既存のチームを母体にアルビレオ新潟(現アルビレックス新潟)が誕生した。その経営をまかされたのが96年。池田はワールドカップが大きな転換点になると予感していたという。

「94年にはワールドカップの誘致委員として、アメリカ大会の決勝に視察に行ったのですが、満員の競技場、熱狂するサポーターを目の当たりにし、熱気に圧倒されました。この非日常の空間、雰囲気を新潟の人たちにもぜひ味わってもらいたかった。こんな大会が新潟で開催されることを考えると、わくわくしましたね」

新潟は「日本海側での唯一の開催地」という地の利を訴えたこともあり、大方の予感を覆して招致に成功する。しかし皮肉にも、アルビレックス新潟はチーム存亡の危機に直面していた。99年からのJ2リーグ参加が決まっていたとはいえ、98年には2億円の赤字を計上し経営状態は悪い。チームが勝てないうえ、98年は年間観客動員数が4万447人と不振を極めていた。広告効果が見込めないため協賛企業もつかない。

「ワールドカップ開催地に決まったことを手みやげに、サッカーチームはもうやめてもいいのでは」という声まで聞こえてきた。それでも池田はあきらめない。スポーツ不毛の地で生まれたアルビレックスが、町おこしの核になると信じていたからだ。

私財を投じて増資をする一方で、Jリーグの原点に立ち返り、大口の支援に頼らず地域全体で支える仕組みを作った。「後援会組織を広げ、企業からは3万円、個人からは1万円の会費をお願いしました。この広く薄く出資を募る方法が、結果的に自分たちが支える『おらがチーム』という意識を持ってもらうプラス効果をもたらしました」

選手の補強も功を奏し、J2リーグに加わった99年は4位につけた。年間観客動員数も7万5798人と上向き、翌00年には8万139人に増加して経営も黒字に転換した。そして01年、4万2300人を収容できるビッグスワンが完成。こけら落としは5月19日の京都パープルサンガ戦に決まった。

右/NSGグループの専門学校の1つ、JAM(日本アニメ・マンガ専門学校)。アニメーター科など7つの科がある。左/仲間たちと楽しみながら腕を磨く。JAMには機材がそろった実習室やデジタルラボなども完備されている。
右/NSGグループの専門学校の1つ、JAM(日本アニメ・マンガ専門学校)。アニメーター科など7つの科がある。左/仲間たちと楽しみながら腕を磨く。JAMには機材がそろった実習室やデジタルラボなども完備されている。


採算度外視の招待券配布でサッカーの魅力を伝えて観客動員数を8倍以上に

ここで浮上したのが、記念すべき日にビッグスワンが観客で埋まるのかという問題。当時、アルビレックス新潟の試合に集まる観客数は平均4000人。何とか体裁を整えるため、1階席だけを使うという苦肉の策も検討された。だが、池田の発想は違う。4万人収容のスタジアムなら4万人を集める方法を考えようというのだ。

「その頃は、すでに1試合につき1万枚の無料招待券を配っていて、そのうち1割の1000人ほどが実際に来場していました。ビッグスワンを満員にするのは無理でも1万人は入れたい。そこで10万枚の無料券を配ろうと考えました。もちろん、むやみに配るわけではありません。自治会の回覧板で希望者を募ったり、学校経由で子供たちに往復はがきを配ったりして、できるだけ来てもらえるように工夫しました」

従来とけた違いの数でもあり、現実的には何人が集まるか見通しは立たない。不安な気持ちのまま迎えた当日。集まった観客は3万2000人と、予想をはるかに上回った。そのうち8割までが無料招待客で、サッカー観戦よりも新しくできたビッグスワンの見物が目当てという人も少なくなかった。

「それでいいのです。サッカーを知らない人たちにサッカーの魅力を知ってもらい、熱狂空間を体験してもらうことが第一ですから。大勢の観客が集まれば選手も必死にプレーします。実際、大観衆の前で選手たちはいい試合をしました。後半終了間際にアルビレックスが同点に追いついた時には、割れんばかりの大歓声が上がりましたね。残念なことに負けてしまいましたが、こういうおもしろい試合を見た人は、何度もスタジアムに足を運ぶようになってくれるものです」

その年、池田は営業側の反対を押し切り、無料招待券の配布を継続した。サッカー界では「新潟のばらまき作戦」と揶揄(やゆ)されたが、たくさんの人にサッカーのおもしろさを知ってもらいたい一心で招待券を配った。チケット収入がなくてもスタジアムに来れば飲食をし、グッズも買っていく。狙い通り、効果はすぐに表れた。繰り返し訪れる人が着実に増えてサポーターとなっていき、その現象はマスコミにも取り上げられるようになった。

右/NSGグループの研修施設「STEP」の研修室。披露宴会場などの施設があり。左/NSGグループが擁する新潟県内23校の専門学校の合同卒業式。
右/NSGグループの研修施設「STEP」の研修室。披露宴会場などの施設があり。左/NSGグループが擁する新潟県内23校の専門学校の合同卒業式。


サポーターが増えるとチームも強くなる。その相乗効果で観客数がぐんぐん伸びていった。ほどなくしてチケット購入者が観客の5割を超え、01年の観客動員数は36万6500人となった。前年の4倍以上の数字である。その後も動員数は増え続け、03年のJ1昇格を経て、05年には68万1945人を記録。チームカラーのオレンジ色で埋め尽くされたスタンドは、もはや新潟スポーツ文化の代名詞と言っても過言ではない。池田が思い描いた通り、アルビレックスは、新潟活性化の核として大きな役割を担う存在になったのだ。

スポーツだけでなく若者の起業を支援し地域活性化を

現在、新潟にはサッカーをはじめとしてバスケットボール、チアリーディング、ウィンタースポーツ、陸上競技と、「アルビレックス」の冠を持つ5つのスポーツチームがある。プロバスケットボールリーグ「bjリーグ」の立ち上げにも池田の尽力があった。
さらに、サッカーのアルビレックス新潟がシンガポールリーグに参戦するなど、舞台は海外にまで広がった。

「新潟をスポーツで国内ナンバーワンの都市にして、地元で若者を育てたいと考えています。以前は、有望選手は県外に出て行くのが常でしたが、それは人材を育てる土壌がなかったからにほかなりません。力を発揮できる場を作れば若者はとどまり、地域活性化にもつながっていきます」

スポーツに限らず、池田はいろいろな分野で若者支援の種をまいている。01年に立ち上げた「異業種交流会501」は、新潟に優良企業を誕生させようという考えのもと、起業を支援し、現在までに87社が生まれた。将来は501社まで増やすのが池田の目標だ。

さらに06年に開校した事業創造大学院大学では、MBA(経営学修士)の取得コースを設け、起業家の育成から支援までを手がける。07年4月には東京キャンパス(東京都千代田区)も開設した。
「いろいろな組織を率いて大変でしょうと言われますが、私の仕事は神主と学校の理事長とサッカーチームの会長。この3つです」3つの仕事に共通する目標は地域の活性化だ。池田は常に新潟の将来を力強く見据えている。(敬省略)



【プロフィール】池田 弘(いけだ・ひろむ)
1949年新潟市生まれ。国学院大学で神職を学び、77年に愛宕神社の宮司に就任。同年新潟総合学院(NSG)を開校し、理事長に就任。大学院大学、大学、専門学校、高等学校などの教育機関と医療・福祉機関などからなるNSGグループを築き上げる。96年にサッカーチーム・アルビレックス新潟の代表取締役に就任。倒産の危機を乗り越え、03年にはJ1昇格を成し遂げた。さらに05年にはプロバスケットボールリーグ「bjリーグ」の立ち上げに尽力。現在、起業家支援プロジェクトにも取り組むなど各方面で活躍している。著書に『神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか』(東洋経済新報社)など。

【学校クレジット】
新潟総合学院(NSG)
【所在地】〒950-8063 新潟市中央区古町通2-495
【創 業】1976年11月
【T E L】 025-224-2650
【学校規模】計31校、生徒数1万1959人(07年5月時点)
【売上高】290億円
【従業員】2025人
【事業内容】専門教育事業、高等教育事業、大学教育事業、医療・福祉施設
【URL】http://nsg.gr.jp/

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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