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子どもたちに必要なのは「情緒の教育」

東洋大学社会心理学部教授 中里至正氏/B STYLE18月号より(2006年2月15日発行)

昨今、日本の子どもたちの道徳意識の低さや自信喪失が社会問題となっている。
この問題に誰よりも早く着目し、研究を続けている東洋大学の中里至正教授に話をうかがった。

中里至正氏<br />東洋大学 社会心理学部教授。著書「日本の親の弱点」「日本の若者の弱点」(毎日新聞社)「異質な日本の若者たち世界の中高生の思いやり意識」(ブレーン出版)など多数。
中里至正氏
東洋大学 社会心理学部教授。著書「日本の親の弱点」「日本の若者の弱点」(毎日新聞社)「異質な日本の若者たち世界の中高生の思いやり意識」(ブレーン出版)など多数。
---児童教育において重要なポイントは?
中里● 子どもの教育は、親子の関係性を無視するわけにはいきません。 以前、親に対する子どもの意識や態度を知るために、7カ国、6000人の子どもを 対象に国際比較調査をしたことがあります。親を尊敬しているかといった5つの質問に対し、 「はい」を4点、「いいえ」を1点とする4段階評価で、すべて「はい」だと20点、「いいえ」 だと5点になる調査です。
結果をみると、悲しいことに日本の子どもはすべて平均点以下でした。他国に比べて日本は、親と子どもとの心理的な距離が離れている。

今度は親に、「あなたは子どもに期待しているか」「子どもとうまくいっているか」といった質問をすると、「子どもの人格が…」とか 「私の自己実現が…」という言い方をして距離を置く。集団主義の日本より、個人主義であるアメリカのほうが、 より親密な親子関係が構築されているんですよ。

戦後から次々に入ってきている輸入文化の混乱が60年以上続いています。 その結果、われわれはさまざまな価値観をストレートに取り入れすぎて、日本人としての考え方や、 価値観に自信を失っている。服や食品のようなモノだと日本人サイズや嗜好に合わせることができますが、 こと文化とか心の問題になるとそうはいかない。だから価値観の混乱が起きているのです。

---児童教育のカギは親子関係、ということでしょうか。
中里● はい。子どもにとって親は観察学習のモデルです。子どもに何かと教える前に、親自身がしっかりしないといけないんですよ。「思いやりのある子に育てたい」というのに、 誰もそのための教育をしていない。たとえばアメリカは、どういう子どもに育てたいかという お母さん同士のコンセンサスがありますが、日本のお母さんは、それぞれが勝手に言っているだけ。 仮説ですが、「思いやり意識」の根幹を成す情緒反応である「共感性」は、子どもが幼い頃に活性化しないと、 大人になってもなかなか活性しないようです。

「思いやり」に関しても同じことがいえます。日本は80年代後半で「思いやり意識」が大きく落ちていることが調査でわかっています。そして現在も回復していない。
なぜかと考えると、「思いやり」は一種の対人反応なんですね。集団で生きる動物には、 相手が自分より強いか弱いか、喜んでいるか怒っているかを判断する感覚が備わっています。

このような感覚は、生まれてから後に誰かに刺激されて、はじめて活性化するものなのです。 そしてそれを活性化させる第一の当事者は、学校ではなく、親なのです。
幼い頃に活性化されず、共感性などの情緒反応の感度の低い子どもは、 大人になっても他人の悲しさや苦しみを見て心が痛まない大人に成長してしまう。

---児童教育は何歳までが適切と考えられますか?
中里● 小学校入学前が勝負ではないでしょうか。日本の子どもは「性」に対して一番許容的な態度をとることが長年の国際比較研究でわかっている。セックス関連の情報がネットだけでなく、漫画や雑誌でも容易に入手できるからです。しかし、この種の情報の流出は外部の力で防げない。だったら子どもたち自身に「抗体性」をつくるしかないでしょう。これを我々は「行動抑制要因」 または「心のブレーキ」と呼んでいます。

---その「心のブレーキ」を身につけるのが幼児期なのでしょうか
中里● そうですね。われわれは小さい頃、道徳で「良いこと」「悪いこと」を学びます。 でも、ことの善悪をいくら頭では分かっていても、それだけでは本当の意味での「心のブレーキ」に はなりません。物事の良し悪しの判断は、頭だけで考えるものではなく、心で感じることが必要です。つまり、頭と心の「ダブルブレーキ」が真の行動抑制要因になるのです。

道徳教育の本質は情緒教育です。事の善悪の知識を教えるだけでは不十分です。親がまず「美しさ」とか「悲しさ」、「うれしさ」などの情緒反応に敏感になって、 それを親子で共有することが非常に大切なのです。

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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