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日本唯一の前掛け専門店の挑戦

古きを温ね、新しきを拓く

エニシング(東京都小金井市)

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■歴史の後押しを受け今に活かす
 前掛けは厚手の綿織物である。だが、体に巻きやすいように、帆布などとは違って軟らかさを追究し、独特の横糸の入れ方をする。
折勝商店 西村和弘社長<br />緑豊かな小金井市にあるエニシング本社の前で抱負を語る
折勝商店 西村和弘社長
緑豊かな小金井市にあるエニシング本社の前で抱負を語る

 そうして織られた前掛けは内側と外側から体を守ってくれる。前掛けを締める位置に当たる臍の下の「丹田」を締めることで体の軸の安定や血液の循環が計れ、心の落ち着きにも繋がる。また、腰に巻く太い紐は骨盤を締め、腰を守っている。昔は木箱で物を運んでいたため、木のささくれや釘による怪我を防ぐ役目も果たしていた。
 このように、なぜ前掛けが使われ続けてきたのか?と歴史を紐解くと、本質的な答えが自ずと出てきます。今は木箱での運搬はほとんど見かけませんが、前掛け本来の役割や特徴を考えると現代に活かせる場面はある。例えばラーメン店。持ち上げた寸胴の鍋が、腰や足に触れると火傷の恐れがありますが、厚手の前掛けならば体を守ってくれます。
 販売や飲食店で長時間立ち仕事をしている方たちの腰痛予防の役にも立ちます。店名の入った前掛けは宣伝にもなる。肝心なのは歴史からしっかり学び、今に活かすことなのです。
現在の海外展開はイギリスの雑貨店での販売と、ユニフォームとしてニューヨークの飲食店への販売
現在の海外展開はイギリスの雑貨店での販売と、ユニフォームとしてニューヨークの飲食店への販売

 西村社長が、言わば「古きを温(たず)ね、新しきを拓く」ことを確信するきっかけとなったのは、2009年にニューヨークの紀伊国屋で行なった展示会だった。開催が決まったとき、「前掛けについてきちんと知らなければ、海外の人に何も伝えられない」と、豊橋の職人のもとへ。改めて前掛けの話を聞いた。すると、熱が入った彼らも展示会への同行を願い出た。ニューヨークでのイベントは大盛況。職人たちの考えを変えるきっかけともなった。
 実のところ、当時作っていた前掛けの質はあまり良いとは言えませんでした。前掛けの生地は糸の太さや厚みによって耐用年数が変わります。最も太い糸で織る厚みのある生地は1号。そこから2号、3号と質が落ちていく。太い糸を使う1号は機械に負荷がかかるため、機械の扱いに細心の注意を求められ効率が悪い。豊橋では昭和40、50年以降、3号しか作っていませんでした。でも、海外の方からの評価を目の当たりにした職人さんたちが奮起してくれたおかげで、その後、僕の念願だった1号の生地が数十年ぶりに再現されたのです。

■伝統と「今」を織り込んだ豊橋モデルの可能性
 エニシング以外には専門店こそないものの、前掛けを売る会社は少しずつ増えている。が、西村社長は言う。「何よりの自信は、前掛けとお客さんについて10年もの時間を費やして考えてきた会社は他にないということ。それが僕らの無形資産です」。
転機の1つとなったニューヨークで開催した2009年の展示会。好評だった職人の講演や染め体験、書家を招いてのイベント
転機の1つとなったニューヨークで開催した2009年の展示会。好評だった職人の講演や染め体験、書家を招いてのイベント

 また、同社は10年前には消えかけていた前掛け作りの世界に、新たな仕組みを誕生させた。今、豊橋の工場ではエニシングの従業員3名が熟練の職人と共に働いている。30年、50年先を見据えた工場の移転計画も進んでいる。
 今後「衣食住」をどうシフトチェンジするかという課題に直面している今、次なる転換を図ることも大きな仕事の一つだと思っています。前掛けの職人さんと僕らが出会ったことで、高齢化が進んでいた工場に仕入先から若い従業員が職人として入る新しい仕組みが生まれました。日本の繊維の産地はそれぞれ優れた技術を保有しているにもかかわらず、後継者不足で廃業に追い込まれつつある。だからこそ、各地で「豊橋モデル」がうまく行けば、日本の強みをもっと活かせるのではないでしょうか。
 銘酒「獺祭」を誕生させ、現代に合う新たな需要を作り出した旭酒造さんのように、僕らは伝統産業で新しいモデルを作りたい。それを見て真似してくれる繊維の産地や会社が出てきてくれたら嬉しいですね。それが、お客さんに喜んでもらえる質の高いものづくりの起爆剤になると思っています。


<Company Profile>
 有限会社 エニシング
 東京都小金井市中町1-7-29
 TEL 042-401-6982
 資本金 300万円
 従業員 10人(パート含む)
 http://www.anything.ne.jp

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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