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工夫次第で収益が得られる仕組みづくり

傾聴活動から生まれた手仕事プロジェクト

気仙沼ミサンガプロジェクト(宮城県)

東日本大震災の後、東北沿岸部の多くの人が仕事を失った。これまでと違う環境で、すぐに外に働きに出ることが困難な人たちが、収入を得るための取り組みとして生まれたのが、気仙沼ミサンガプロジェクトだ。一つひとつの商品につくり手の名前を明記することで、買い手とつくり手を直接つなぎ、単なる商品の売買ではない“つながり”を生み続けている。

■仕事がない不安を取り除く
 東日本大震災後、被災地の避難所では次々に物資の搬入が行われ、多くのボランティアがその仕分けに奔走していた。一方で、避難所に行かず、津波で流されずに残った自宅にいる人や、アパートなどのみなし仮設に移り住んでいる人も大勢いた。「避難所には人手も物資もあった。でも、自宅に残った被災者のところへは、物資も情報もほとんど届かない時期があった」。震災後の気仙沼の状況についてこう語るのは、気仙沼ミサンガプロジェクトを立ち上げた聖敬会(宮城県気仙沼市)の平田洋子事務局長だ。
気仙沼ミサンガプロジェクト 平田洋子事務局長
気仙沼ミサンガプロジェクト 平田洋子事務局長

 支援が行き届かずに困っている被災者がいる――。そんな状況に、「自分たちができることをやろう」そう考えた平田氏は、仲間とともに流されずに残っている家を訪問し、人の有無を確認。困っていることはないか聞いて回る傾聴活動を始めた。
 まずは県外にいる友人に、気仙沼市沿岸部の航空写真を送ってもらった。その写真を見ながら、流されずに残っている家を確認し、1軒ずつ訪問していった。そうしているうちに、「子どもと離れて考える時間が少しでも欲しい」という声が多くあることに気がついた。
 よくよく話を聞いてみると、職場がなくなり働けなくなったことが、大人たちの間で大きなストレスとなっていることがわかった。生活するためのお金をどう捻出すればいいかわからない。そうした不安を常に抱えていることで、自分の子どもとうまく向き合えない状態になっていたのだ。「とにかく、自分たちの手で〝稼ぐ?ための仕組みが必要だと感じた」(平田氏)。

■工夫次第で〝稼げる"仕事
 資金をかけず、家にいながらできる仕事が必要――。そう感じた平田氏が中心となり、被災者に自宅で色とりどりの刺繍糸を編んで組み紐にしたミサンガをつくってもらい、それを販売する取り組みが始まった。「サッカー選手がつけていたことで広まったようだが、私が子どもの頃は〝プロミスリング?と呼ばれていて、お守り代わりにサーファーがつけていた。『海のお守り』というイメージがあった」と平田氏は言う。
右:8本の刺繍糸でつくられる色鮮やかなミサンガ。つくり手一人ひとりが「売る」ための工夫を凝らしてつくっている。また、「さまざまな会社の粗品として使っていただくこともある」と平田氏はその広がりを語る。手作業のていねいなつくりが、とても好評だ<br /><br />左:ミサンガが入った袋の中には、震災当時のエピソードが書かれたカードが入っており、台紙にはエピソードの最初の2行だけが書かれ、読めるようになっている
右:8本の刺繍糸でつくられる色鮮やかなミサンガ。つくり手一人ひとりが「売る」ための工夫を凝らしてつくっている。また、「さまざまな会社の粗品として使っていただくこともある」と平田氏はその広がりを語る。手作業のていねいなつくりが、とても好評だ

左:ミサンガが入った袋の中には、震災当時のエピソードが書かれたカードが入っており、台紙にはエピソードの最初の2行だけが書かれ、読めるようになっている

 同プロジェクトの特徴の一つとして、つくり手一人ひとりが個人事業主であることが挙げられる。震災後、被災地では多くの手仕事プロジェクトが立ち上がったが、つくった総数に対して手間賃が支払われる形がほとんどだ。完成させた商品すべてに一定のお金が支払われるが、金額は販売価格の20~50パーセントほど。1個500円の商品ならば、つくり手に入る手間賃は1個100円ほどになってしまう。それに対し、同プロジェクトは、個人事業主としてつくるため、売れた数が収入となる。すべてが売れるとは限らない不安定さはあるものの、売れた金額の大半がつくり手に届くようにした。売れるものをつくれば、収入がアップする仕組みだ。「単なるお小遣い稼ぎや、コミュニティ再生ではなく、工夫することで〝稼げる?ものにしたかった」(平田氏)。

■自立手段としてのミサンガ
 「事務局ではつくり方を教えない」(平田氏)。それは、自分で工夫してつくるということを最初から経験して欲しいと思ったからだ。
 もちろん、つくり手になりたいという人のほとんどが、これまでミサンガをつくったことがない。そのため、プロジェクト立ち上げ当初は、基本のつくり方を教えていた。だが、一つのつくり方を教えると、教わった人皆が色も柄も同じモノを何個もつくってきた。オリジナリティのあるものをつくって欲しいと伝えても、なかなか伝わらなかった。「これではダメだと思った」(平田氏)。
 柄も色も工夫されていないものであれば、「買いたい」と思う人はいない。最初のうちは「被災地の人がつくった」と書かれていれば売れるかもしれない。でも、それではすぐに売れなくなる。
 平田氏は、つくり方を教えることをやめた。「事務所にはパソコンが置いてあり、ミサンガの本もある。つくり方がわからなければ、検索もできれば、本を読んで参考にすることもできる」(平田氏)。自ら試行錯誤しながら、オリジナリティ溢れたものをつくって欲しいと思ったのだ。
 さらに、商品には必ず本人の名前を書いたタグをつけるようにした。自分の作品に責任を持って欲しいと思ったからだ。ミサンガの代金が誰のところにわたるかを、購入者にも明確にしたいという考えもあった。
 また、ミサンガと一緒に、震災当時、つくり手の身に起きたエピソードを書いて入れた。台紙の裏はハガキになっており、購入者がつくり手にメッセージを書いて送ることができる。「ハガキは毎日2、3枚ほど返ってくる」と平田氏は言う。事務局に届いたハガキは、そのままつくり手のところに届く。内容は、エピソードを読んで感じたことを一面に書きつづったものなど、様々だ。こうしたメッセージは「つくり手のモチベーション向上につながる」(平田氏)。とくに、始めたばかりのつくり手は、買ってもらえるような商品がなかなかつくれずに悩むことも多い。そんな中、「色や柄がよかった」という内容のハガキが1枚でも届けば、大きな励みになる。中には、このハガキを通して購入者と連絡を取り合うようになった人もいる。ミサンガを通じて被災地とそれ以外に住む人に、新たなつながりが生まれているのだ。
配色や編み方は、本などを参考にしながらつくり手が自分で考える
配色や編み方は、本などを参考にしながらつくり手が自分で考える


■変化しながら続く取り組み
 「震災はまだ終わっていない」と平田氏は言う。3年が経過し、メディアでは、復興したという明るい話題ばかり。だが、「職を失ってから再就職できない人や、震災をきっかけに心を病んでしまったままの人もいる。そういう人たちがいることを、忘れて欲しくない」(平田氏)。今も被災者は大変な状況に置かれている。それでも、生きていくために一生懸命にやっていることを、もっと多くの人に伝えたいと感じている。
 ピーク時は170人ほどいたつくり手としての登録者は、今は100人前後と減ってきた。だが、今すぐに就職できる状態ではない人も大勢いる。障害がある人、家族に障害がある、親の介護をしているなど、事情は様々だ。
 ほかに収入を得ることが難しい人のために、受け皿として続けていく――。その形は発足当初と変わりつつある。だが、同プロジェクトは、今もなお生きるために懸命な被災地の人々と、すでに平和な日常を取り戻した人々をつなぐ、貴重な架け橋となっている。


<Organization Profile>
 気仙沼ミサンガプロジェクト/聖敬会
 宮城県気仙沼市南郷8-3-D202
 080-5932-8880
 http://www.facebook.com/k.misanga
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 ※聖敬会はいかなる宗教団体、その他の団体と関係ありません。会名称は、結成当時のメンバーの名前から取ったものです。

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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