森永卓郎氏が最新経済動向を独自の視点から読み解く
<森永卓郎の経済探偵録>非常に危険な足下の景気
●獨協大学経済学部教授 森永卓郎 (2009年10月15日更新)
森永氏は、民主党の政策には基本的に賛成しているというが、その経済政策には大きな問題があると考えている。来年の参議院選挙でも勝利してもらうために、今一度、経済政策を見つめ直して欲しいと言っている。
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民主党政権が発足した。鳩山内閣の支持率は高く、例えば毎日新聞が9月16日~17日に行なった全国世論調査によると、内閣支持率は77%に上っており、小泉内閣の85%に次いで、歴代2位の高水準となった。国民の期待に応えようと、鳩山内閣の閣僚は、郵政民営化の見直し、八ッ場ダムの計画廃止、国の出先機関の廃止、後期高齢者医療制度廃止や障害者自立支援法の見直しなど、民主党がマニフェストに盛り込んだ政策を次々と実行に移し始めている。
私は民主党の政策に基本的には賛成している。中長期的には、構造改革路線で傷ついた日本の経済や社会を復活させる可能性も十分あると考えている。ただ、一番の心配は、せっかく回復の気配を見せ始めた景気が、二番底に向けて再び沈んでいくのではないかということなのだ。
景気回復への足取りはまだ不確かだ。実際、内閣府が発表した4~6月期のGDP統計の改定値で、年率換算の実質成長率が2.3%と、一次速報値の3.7%から1.4%ポイントも下方修正された。政府は、その理由を在庫投資が大幅に下方修正されたことが主因だと説明している。そして林芳正前経済財政担当相は「在庫調整が進んでいること自体は悪い話ではない」と国民の不安を打ち消すコメントを出した。確かに、景気回復の初期には、企業が増産を控えるなかで、製品が売れていくから、在庫投資はマイナスになることが多い。
しかし、問題は、設備投資や公共投資も大きく下方修正されていることだ。年率換算で、民間企業設備投資は▲4.3%から▲4.8%へ、公的固定資本形成も8.1%から7.5%へと下方修正されている。これも成長率の下方修正に大きな影響を与えているのだ。
さらに、直近の景気指標をみても、景気回復とはほど遠い現実が浮かび上がる。例えば、景気の先行指標と言われる機械受注統計で、「船舶・電力を除く民需」の7月の受注額は、前月比前月比9.3%減の6647億円となり、比較可能な1987年度以降で過去最低となっている。
日銀が発表した8月の企業物価指数は、前年同月に比べ8.5%下落し、2カ月連続で過去最大の下落率となった。7月の消費者物価指数総合(生鮮食品を除く)も前年同月比が2.2%の下落と、3カ月連続で過去最大の下落率を更新した。労働市場も悪化を続けており、7月の完全失業率は、5.7%と過去最悪を記録し、7月の有効求人倍率も0.42倍と3カ月連続で過去最低を更新している。
今後半年間、景気対策を打つ予定なし
景気指標が最悪を更新しているのだから、普通に考えれば、政府は即座に新たな景気対策を打ち出すべきだろう。ところが、総選挙後、私は多くの民主党議員に質したのだが、全員が、「当面は景気対策を打つ予定はない」と断言したのだ。それどころか、麻生内閣時代に決められた補正予算について、未執行で必要性の低い事業については執行を停止するという。その規模は3~4兆円にも達するとみられている。今のままでは、明らかな財政の引き締めに向かうのに、それでも民主党は、景気が失速するとは考えていないようだ。
民主党の経済成長戦略は、子ども手当や高校の実質無償化などの政策で国民の実質所得が増えれば、消費を喚起され、景気が回復するというものだ。中長期的にはその考えは正しいかもしれない。しかし、少なくとも短期的には、いまの民主党の政策だけでは景気は好くならないだろう。
ひとつの理由は、新政策の実施時期だ。子ども手当は、来年4月から半額支給で始まる。公立高校の実質無償化やガソリンなどの暫定税率の廃止も来年度からだ。つまり少なくとも今後半年間は、何の景気対策も行なわれないことになる。
もうひとつの理由は、民主党の経済対策が、その財源の多くを無駄遣いの排除に求めていることだ。予算を組み替えて、無駄遣いを排除し、意味のある財政支出に切り替えれば、経済成長がもたらされる。しかし、それはあくまでも中長期の話だ。短期的にみれば、意味のある財政支出も、意味のない財政支出も、効果は同じだ。違いが出てくるのは、中長期的に、その財政支出で創り出した施設や制度の効果が現われてきてからなのだ。
つまり、いまの民主党の経済政策は、短期の財政政策としては効果をもっていないということになる。しかも財務大臣に就任した藤井裕久民主党最高顧問は、財政再建論者として知られている。就任後のインタビューでも、早期の財政出動を明確に否定しているのだ。
景気対策の手段は、財政政策と金融政策しかない。その片方が機能しないということになれば、残りは金融政策に期待するしかない。ところが、世界の視点からみると、日本の金融政策は極端な引き締めになっている。中央銀行の一番大きな機能は、景気を見ながら資金供給量を調整することだ。マネタリーベースと呼ばれる中央銀行が自由にコントロールできる基礎的な資金量は、7月のデータで日本は前年比6.1%増だ。
一見、増えているようにみえるが、EUは30.1%増、米国は102.5%増だ。つまり、日本の資金の伸び率は、欧米と比べると、とんでもなく低いのだ。資金をたくさん出せば、その国の通貨の価値が下がる。逆に出し方が少なければ価値が高まる。最近進んでいる円高の最大の原因は、日銀の資金供給が国際的にみて少ないからだ。円高が進めば、デフレが進む。これも、物価が過去最大の下落をみせていることから明らかだ。つまり、いまの日本経済は、デフレスパイラルへの道をまっしぐらに進んでいることになるのだ。
ところが、藤井財務大臣は、「金融は日銀の専管事項」として口出しをしようとしていないし、為替市場への介入は不要と、円高への対応も否定している。
高い理想を掲げた民主党の経済政策の前に、現実経済の大きなマイナス成長が立ちはだかれば、鳩山内閣に大きな期待をかけている国民に大きな失望を与え、来年の参議院選挙での勝利が覚束なくなる。政府は、そのことに十分配慮して経済を見つめて欲しい。
※編集部:この原稿は09年9月21日にご入稿いただいたものですので、掲載の時点に状況が変化している場合もあります。
※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。















