<森永卓郎の経済探偵録>外食産業の新しい波:中小企業経営・新規事業ほか企業経営に今すぐ役立つ!

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森永卓郎氏が最新経済動向を独自の視点から読み解く

<森永卓郎の経済探偵録>外食産業の新しい波

●獨協大学経済学部教授 森永卓郎 (2009年9月16日更新)

 外食店全体が軒並み売り上げ不振に悩んでいるなか、着実に売り上げを伸ばしているいくつかの外食企業がある。森永氏はそれらの例から、これからの時代にマッチした外食店のあり方を分析している。

行列ができる中華レストラン

 先日、テレビの取材で、東京新橋の「餃子の王将」を訪れた。店舗の外まで大行列ができていた。特にイベントやキャンペーンをしていたわけではない。ごく普通の日に行列ができているのだ。餃子の王将は、昭和42年に京都で第一号店を出店して以来、全国500店舗を超える業界トップの中華レストランだ。新しいわけでも、珍しいわけでもない。それなのに、なぜ行列ができているのか。

 基本的には安くておいしいということなのだが、そうした外食店はほかにいくらでもある。外食店全体が軒並み売り上げ不振に悩んでいるのに、王将を経営する王将フードサービスの決算をみると、昨年度、全店で前年同期比9.3%増、既存店でも5.0%増と、大きく客数を伸ばしている。

 実は、王将には、他の外食チェーンと比べて、大きな特徴がある。それは、店長に対する大幅な権限委譲だ。店長は、もちろん本社での研修を受けるが、それぞれの店舗で独自の味を作ることが許されている。だから王将の店は、個店ごとに、微妙に味が異なっているのだ。また、店舗ごとにオリジナルのメニューを作っている店もある。

 例えば、学生街なら学生の旺盛な食欲を満たす大盛りメニューを加えるといったメニュー作りだ。住宅街、学生街、サラリーマン街と、それぞれの店舗が置かれた環境によって、メニューを作り替えるというのは、むしろ当然だと言えるのかもしれない。また、現場に権限委譲をしたほうが、店舗間に競争が働くし、現場のやる気が高まるから、経営的にも有利になるのは間違いない。

 しかし、それは、これまでの外食産業が作り上げてきたビジネスモデルと異なった姿だ。これまでの外食産業はメニューを統一して、セントラルキッチンで大量生産することで、コストを引き下げてきた。また、全店で同じメニューを提供することによって、どの地域の店に入っても同じものが食べられるという安心感を消費者に与え、同時に外食チェーンとしてのブランドを確立してきたのだ。

 しかし、そうした戦略が行き詰まってきていることは、最近台頭してきた新しい外食チェーンが「統一戦略」を捨ててきていることからも明らかだ。

外食業界にも多様化の波が

 実は、私が住んでいる埼玉県所沢市の狭山ヶ丘駅の近くに、れとろ亭という小さなファミリーレストランが開店した。ステーキやお好み焼き、ナポリタンなどを、鉄板の上で提供するレストランなのだが、1000円前後のメニュー代金にサラダバーとスープバー、そして食べ放題のソフトクリームが含まれているのが大きな特徴だ。夏季限定で、かき氷の食べ放題も含まれていた。

 店は、昭和30年代の商店をイメージした作りになっていて、座席数も30席に満たない小さな店だ。私は、この店が個人経営の小さな店なのだと思っていた。ところが、この店は、ヴィア・ホールディングスという会社が展開する店舗のひとつだったのだ。

 ヴィア・ホールディングスは、もともと暁印刷という印刷会社から出発して、次々とレストランチェーンをM&Aすることで、350店もの店舗を傘下に収める居酒屋・レストランチェーンへと急成長した。会長の横川紀夫氏は、すかいらーく創業家の横川4兄弟の末弟だ。

 横川会長は、すかいらーく時代に夢庵やバーミヤンなどの新業態を開発して、チェーンの多様化に努めてきた。その横川会長が率いヴィア・ホールディングスの最大の特徴は、傘下に49もの居酒屋やレストランチェーンを抱えていることだ。ひとつのチェーンあたり平均で7店舗にすぎない。私が訪れたれとろ亭は、全国で所沢に一軒あるだけだ。

 横川紀夫会長自身が、雑誌のインタビューで、顧客が変化してきているので、ひとつのチェーンは、いままで1000店は可能だったが、いまは100店までが望ましいと語っている。外食業界にも確実に多様化の波が押し寄せているのだ。

コンセプトは「おもちゃ箱」

 実は、ヴィア・ホールディングスよりも、もっと果敢な多様化に取り組んでいる外食企業がある。こちらも急成長しているダイヤモンドダイニングだ。
 蒸し屋清郎、黒達磨、九州男唄、博多もつ美人、GLASS DANCE、Cheese Parade Cafe、九州男酒、聖橋 鳥福、こめぐに、蔵仕込み 夢膳、BEER GARAGE、博多 黒太鼓、真骨鳥、絵本の国のアリス、竜馬が如く、土佐ジロー、Dear MARBLE、九州屋、腹黒屋、小樽屋いか太郎、蒸し屋藤三郎、わらやき屋。いずれもダイヤモンドダイニングの経営する飲食店だ。

 いくつの店をご存じだろうか。さほど多くないはずだ。実は、ダイヤモンドダイニングの掲げるコンセプトは「個店主義」。一つひとつの店がすべて異なる「1店舗1コンセプト」の出店が行なわれているため、個店ごとの知名度は必ずしも高くないのだ。

 個店主義には、立地条件に応じた多様な業態開発や、居抜き物件活用による低コスト化という経営面でのメリットもあるが、もうひとつ、さまざまな「遊び」が可能になるという大きなメリットがある。実際、ダイヤモンドダイニング自身が、「『おもちゃ箱』のように、常にワクワク・ドキドキするような斬新な店創りに挑戦し続けます」と宣言しているのだ。そうした個店主義の下で、いかにも男の店というものから、女性向けのおとぎ話の店まで、実に多様な店舗が誕生している。そして、もしうまくいかなかったら、すぐにリニューアルするのだ。

 ダイヤモンドダイニングでは、1.お客様に喜んでいただく、2.コンセプトを外さない、3.予算に基づいた利益を上げる、という3つの約束を守ること以外は、店舗への権限委譲を行なっている。それは、調理方法やメニューの決定だけでなく、食材・飲材の調達まで含めた大幅な権限委譲だ。これは、これまでの外食産業ビジネスモデルの完全な否定だ。

 先行きが見えないといわれる経済のなかで、ひとつの方向性が見えてきたのではないだろうか。

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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