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<莫邦富的視点>魚と羊を合体すれば「鮮」になる

●莫 邦富(Mo Bang-Fu)(2009年7月22日更新)

知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続ける莫氏によるコラムです。
中国語を母国語とする著者が、日本人も知らない日本語を駆使して、言語の奥行き、広さの面白さを縦横無尽に語った新刊を紹介しています。

日中文化と言語の違いを凝縮した文字

 新鮮の「鮮」という字を分解してみると、魚と羊になる。言いかえれば、魚と羊という2つのパーツで作り上げた製品が「鮮」という字だ。

 漢字文化研究の大家、故白川静氏が著した『常用字解』(平凡社)によれば、「鮮」は、肉が新しいという意味が第一義で、そこからさらに視覚的に訴えて、「新しい、鮮やか」の意味に用いられるという。その典型例に、鮮麗(鮮やかで新しいこと)という語がある。また、「鮮少」という言葉があるように、「少ない」という意もある。

 日中文化と言葉を語る時に、この「鮮」という文字がその両方の特徴をもっとも簡潔に言い表わしている。日本語は、魚に代表される海洋文化の色彩を色濃く帯びている。対して、中国語は、羊に象徴される牧畜文化が大きな影を落としている。

 例えば、日本の「腐っても鯛」ということわざを中国語に訳すと、「痩死的駱駝比馬大」(痩せて死んだ駱駝は馬より大きい)となる。海の魚が陸の動物に変わってしまうのだ。日本は周りを海に囲まれた海洋国家、中国は狩猟民族の打ち立てた牧畜国家、ということを再認識させられる。

 普段、私たちが何も考えずに使っている「美」という字を考えてみよう。美事、美食、美人など日常生活の中でよく使うこの文字だが、分解してみると、羊と大になる。羊が大きいことはイコール美しいということになる。「養」は羊と食からなる。羊を食う人は他人を養うだけの経済力がある、とつい連想してしまう。
 善、祥、義など、価値観とつながる文字をよくよく見ると、羊の存在に気づく。

日中ビジネスの場にも活用できるネタ本

 この7月上旬に海竜社から出版された拙著『鯛と羊』は、以上のようなことを取り上げながら、日本文化と中国文化の違いに肉薄しようとしたものである。

 日本と中国は確かに同じ漢字圏に属し、同じ漢字を使っている。しかしながら、その文化、生活習慣、文学、食生活の根っこはまるで違う。それは言葉にも反映されている。例えば、日本語は魚や魚卵の名前の豊富さが独特である一方、中国語の牛、馬、羊などの家畜の部位を表現する言葉の多さは、日本人の想像を上回る。そこから派生する文学的表現、例えば美女を表わす場合、前者は「白魚」、後者は「凝脂」といった言葉を用いる。

 こうした異文化との比較によって醸し出された文化と言語の面白さ、魅力に取りつかれ、その試みとして食を通して私なりに探ってきた。こうした作業の結果をまとめたものが本書である。

 その続きとして、山など地理的な語彙や表現、さらに梅や桜などの植物に関する語彙と表現を通して、重層的に日中文化の違いを分析していこうと考えている。その意味では、本書は3部作の第一部のつもりで執筆したものだ。

 中国とのビジネス、そして文化交流、人的交流でも、互いに相手国の文化などを理解しないとうまくいかない危険性がある。その意味では、拙い内容であるかもしれないが、多少なりとも読者の皆さんのお役に立つことができれば幸いに思う。



莫 邦富(Mo Bang-Fu): 1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。
『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーとなり、話題作には『日本企業がなぜ中国に敗れるのか』『これは私が愛した日本なのか』『新華僑』『日中「アジア・トップ」への条件』などがある。
現在、朝日新聞be(土曜版)にて「mo@china」を連載中。博報堂スーパバイザ。東京経営者協会評議委員。東京メトロポリタンテレビジョン放送番組審議委員。中国山東省青島市開発区顧問。三菱UFJ信託銀行業務顧問。
http://www.mo-office.jp/

著者新刊
鯛と羊

日本と中国、食から見る文化の醍醐味
(海竜社)
莫邦富著
価格\1500(税込)

海洋国家と牧畜国家。魚の国と羊の国。食べものの違いでここまで文化が変わる! 生活が変わる! 発想が変わる。

※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。

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