21世紀の大国・中国を見つめる
<莫邦富的視点>なぜ私が蕪湖という町に関心をもったのか
●莫 邦富(Mo Bang-Fu)(2009年6月24日更新)
知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続ける莫氏によるコラムです。
中国経済を支えるエンジンはこれまでは珠江デルタと長江デルタであるが、近年、中部地区の主要都市のも沿海部の主要都市のそれに負けないか、それ以上の勢いを見せている。しかし中部地区といっても広大だ。筆者はその中から蕪湖という町を取材先に選んだという。
中部地方は中国経済を支える新しいエンジンになる
昨年秋、中国の山東省と安徽省を市場調査のため訪問した。ここ4、5年で、私が一番多く訪問したのは実は中国の中部地方だ。
中国経済を支えるエンジンはこれまでは珠江デルタ(香港、マカオの周りの地域)と長江デルタ(上海市と江蘇省南部・浙江省北部の周りの地域)だった。もちろん、この2つの地域はいまでも、これからも中国にとってかけがえのない一番重要なエンジンであり続けると思う。しかし、この2つのデルタのビジネスモデルは、海外輸出へ大きく依存するという問題を抱えている。
近年、中国商品の輸出は世界各地でいろいろな貿易摩擦を巻き起こし、政治と外交の問題にまで飛び火してしまうケースも少なくない。そこへ世界的金融危機に襲われ、輸出ビジネスの限界が露呈してしまった。
その意味では、中部地区の経済は内需依存型のビジネスモデルばかりでなく、沿海部に次ぐ豊かな地域であり、所得の向上に従って市場としての魅力を見せ始めている。経済成長率を見ると、中部地区の主要都市のすべてといってもいいほど、沿海部の主要都市のそれに負けないか、それ以上の勢いを見せている。中国経済を支える新しいエンジンになるのでは、と期待できるほどに存在感を増してきた。
以上は、私の中部地方に対する総合判断だ。その判断に基づいて頻繁に中部地方を回っている。
中部地方は、南から、湖南、湖北、江西、安徽、河南、山西の6省を指す。そのうち、山西省を除いたその他の5省に関心をもち、計画的に回るようにしている。
中部地方の各省に対しては、その省の中心となる省都とその省の中で発展の潜在力がある地方都市を1つか2つ調査対象に選んで、現場で丁寧にリサーチする。こうした調査で現場に対する皮膚感覚をもち、日本企業に提案したり、メディアで私の視点として紹介したりする。
域内総生産が前年度比15.8%増
さて、昨年秋の安徽省に対する市場調査では、省都の合肥市はもちろん訪問するが、地方都市についてはどこを調べるかを迷ってしまった。
07年の経済規模から見れば、長江沿いにある安慶市は同省内1位なので、チェックすべきだと考えもあった。南京に近く、以前訪ねたことがあり、以前との比較で発展ぶりを把握しやすいジョ州市(ジョは、さんずいに除)または馬鞍山市も悪くない。これまで沿海部に製造基地を作って進出した外資系企業は、沿海部の人件費や土地代の高騰により、製造コストの面から製造基地の移転先を探す傾向を強めている。長江デルタの主要都市のひとつである南京市に近いジョ州市と馬鞍山市は、移転先候補地としての立地条件がよく、注目されやすい。しかし、結果として、迷いに迷った末、調査先に選んだのは蕪湖市だった。
南京をスタートポイントに、長江に沿って馬鞍山、蕪湖、安慶という順位で、安徽省の3つの市が並ぶ。07年の経済規模から見れば、安慶市が突出していた。南京ないし長江デルタとの距離から見れば、馬鞍山が評価される。その意味では、蕪湖はやや中途半端になる。
しかし、蕪湖には奇瑞(チェリー)という中国最大の民営自動車メーカーがある。第一汽車、東風汽車や上海汽車など大手よりも私はこの奇瑞の将来に賭けている。これまで中国企業の代表選手が家電大手のハイアールとパソコンメーカーのレノボだとすれば、いまは奇瑞と通信機器会社の華為(ファーウエイ)が新しい旗手となった、というのが私の持論だ。奇瑞の企業城下町となる蕪湖市もこれからもっと発展するだろうとの読みで、成長の潜在性という視点で蕪湖を選んだ。
半年後のいま、新しい統計データが出た。2008年、蕪湖市の域内総生産(GDP)が前年度比15.8%増の749.65億元で,その規模が初めて安慶市を超え、省都合肥市に次いで安徽省2位となった。一人当たりGDPが前年度比15.3%増の32500元で、同年末の為替レートで換算すれば、4755米ドルに相当する。
蕪湖を選んでよかった。ものを見る自分の目に少し自信がもてた。
●莫 邦富(Mo Bang-Fu): 1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。
『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーとなり、話題作には『日本企業がなぜ中国に敗れるのか』『これは私が愛した日本なのか』『新華僑』『日中「アジア・トップ」への条件』などがある。
現在、朝日新聞be(土曜版)にて「mo@china」を連載中。博報堂スーパバイザ。東京経営者協会評議委員。東京メトロポリタンテレビジョン放送番組審議委員。中国山東省青島市開発区顧問。三菱UFJ信託銀行業務顧問。
http://www.mo-office.jp/
著者新刊
「中国全省を読む」事典
(新潮文庫)
莫邦富著
価格¥476(税別)
21世紀を迎え、存在感を増す中国。急成長をみせるその原動力とは何か? 五輪開催により急激な変化を遂げる北京、毛沢東主義を貫いた河南省の栄光、改革・開放以後、大躍進を遂げた広東省、返還後の香港経済の衰退と再興……超大国に潜む各省の光と影を浮き彫りに。地図に加え、名産品情報や写真も盛り込み、旅行に仕事に大活躍の一冊。
![]() 莫邦富氏 |
中国経済を支えるエンジンはこれまでは珠江デルタ(香港、マカオの周りの地域)と長江デルタ(上海市と江蘇省南部・浙江省北部の周りの地域)だった。もちろん、この2つの地域はいまでも、これからも中国にとってかけがえのない一番重要なエンジンであり続けると思う。しかし、この2つのデルタのビジネスモデルは、海外輸出へ大きく依存するという問題を抱えている。
近年、中国商品の輸出は世界各地でいろいろな貿易摩擦を巻き起こし、政治と外交の問題にまで飛び火してしまうケースも少なくない。そこへ世界的金融危機に襲われ、輸出ビジネスの限界が露呈してしまった。
その意味では、中部地区の経済は内需依存型のビジネスモデルばかりでなく、沿海部に次ぐ豊かな地域であり、所得の向上に従って市場としての魅力を見せ始めている。経済成長率を見ると、中部地区の主要都市のすべてといってもいいほど、沿海部の主要都市のそれに負けないか、それ以上の勢いを見せている。中国経済を支える新しいエンジンになるのでは、と期待できるほどに存在感を増してきた。
以上は、私の中部地方に対する総合判断だ。その判断に基づいて頻繁に中部地方を回っている。
中部地方は、南から、湖南、湖北、江西、安徽、河南、山西の6省を指す。そのうち、山西省を除いたその他の5省に関心をもち、計画的に回るようにしている。
中部地方の各省に対しては、その省の中心となる省都とその省の中で発展の潜在力がある地方都市を1つか2つ調査対象に選んで、現場で丁寧にリサーチする。こうした調査で現場に対する皮膚感覚をもち、日本企業に提案したり、メディアで私の視点として紹介したりする。
域内総生産が前年度比15.8%増
さて、昨年秋の安徽省に対する市場調査では、省都の合肥市はもちろん訪問するが、地方都市についてはどこを調べるかを迷ってしまった。
07年の経済規模から見れば、長江沿いにある安慶市は同省内1位なので、チェックすべきだと考えもあった。南京に近く、以前訪ねたことがあり、以前との比較で発展ぶりを把握しやすいジョ州市(ジョは、さんずいに除)または馬鞍山市も悪くない。これまで沿海部に製造基地を作って進出した外資系企業は、沿海部の人件費や土地代の高騰により、製造コストの面から製造基地の移転先を探す傾向を強めている。長江デルタの主要都市のひとつである南京市に近いジョ州市と馬鞍山市は、移転先候補地としての立地条件がよく、注目されやすい。しかし、結果として、迷いに迷った末、調査先に選んだのは蕪湖市だった。
南京をスタートポイントに、長江に沿って馬鞍山、蕪湖、安慶という順位で、安徽省の3つの市が並ぶ。07年の経済規模から見れば、安慶市が突出していた。南京ないし長江デルタとの距離から見れば、馬鞍山が評価される。その意味では、蕪湖はやや中途半端になる。
しかし、蕪湖には奇瑞(チェリー)という中国最大の民営自動車メーカーがある。第一汽車、東風汽車や上海汽車など大手よりも私はこの奇瑞の将来に賭けている。これまで中国企業の代表選手が家電大手のハイアールとパソコンメーカーのレノボだとすれば、いまは奇瑞と通信機器会社の華為(ファーウエイ)が新しい旗手となった、というのが私の持論だ。奇瑞の企業城下町となる蕪湖市もこれからもっと発展するだろうとの読みで、成長の潜在性という視点で蕪湖を選んだ。
半年後のいま、新しい統計データが出た。2008年、蕪湖市の域内総生産(GDP)が前年度比15.8%増の749.65億元で,その規模が初めて安慶市を超え、省都合肥市に次いで安徽省2位となった。一人当たりGDPが前年度比15.3%増の32500元で、同年末の為替レートで換算すれば、4755米ドルに相当する。
蕪湖を選んでよかった。ものを見る自分の目に少し自信がもてた。
●莫 邦富(Mo Bang-Fu): 1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。
『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーとなり、話題作には『日本企業がなぜ中国に敗れるのか』『これは私が愛した日本なのか』『新華僑』『日中「アジア・トップ」への条件』などがある。
現在、朝日新聞be(土曜版)にて「mo@china」を連載中。博報堂スーパバイザ。東京経営者協会評議委員。東京メトロポリタンテレビジョン放送番組審議委員。中国山東省青島市開発区顧問。三菱UFJ信託銀行業務顧問。
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著者新刊
「中国全省を読む」事典
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21世紀を迎え、存在感を増す中国。急成長をみせるその原動力とは何か? 五輪開催により急激な変化を遂げる北京、毛沢東主義を貫いた河南省の栄光、改革・開放以後、大躍進を遂げた広東省、返還後の香港経済の衰退と再興……超大国に潜む各省の光と影を浮き彫りに。地図に加え、名産品情報や写真も盛り込み、旅行に仕事に大活躍の一冊。
※記事は作成日時点のデータですので、あらかじめご了承ください。
















